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『ペーパー・ライオン』が17期松崎さんにより翻訳出版されました

2022年04月16日 ニュース

このほど17期OBの松崎仁紀さんの翻訳により、ジョージ・プリンプトン著『ペーパー・ライオン』というフットボールのノンフィクションが出版されました。

フットボール素人の作者がNFLデトロイト・ライオンズのトレーニングキャンプに参加し、選手と同じように練習し、生活した日々を綴った本です。1966年に出版され、アメリカではベストセラーになり、1968年に映画化もされています。

書籍表紙

発行 同時代社
出版年月 2022年2月
ISBNコード 978-4886839169

以下、松崎さんからの本書の紹介です。


現在でこそ隆盛を誇るプロフットボール(ナショナル・フットボールリーグ;NFL)ですが、本書『ペーパー・ライオン』が刊行された1960年代、アメリカ最大の人気プロスポーツは大リーグ野球でした。プロフットボール選手は、柄が大きいばかりで教養とはかけ離れた“荒くれ者”というのが一般のイメージでした。ジョージ・プリンプトンは選手経験が全くないにもかかわらず、シーズン開幕前の数週間、プロチームのトレーニングキャンプに参加し、練習に汗を流し、寝食を共にすることで、彼らを理解しようとしました。文字通り“体当たり”で得た成果が本書です。

舞台になったデトロイト・ライオンズはNFLでも古参チームの一つ。ところが、プリンプトンの当時から現在まで優勝した経験がありません。言わば“お荷物チーム”ですが、その大らかさが魅力にもなっているおかしなチームです。

クォーターバックを志願したのに、プレーを始める時、センターの尻に手をあてがうやり方を知らなかったり、味方選手の速い動きに追いつけずに突き飛ばされたりと、プリンプトンの失敗ぶりが笑いを誘います。登場する選手たちも人間性豊かで個性的なところに親しみを覚えます。『ペーパー・ライオン』という表題は、プリンプトンが述べているように、毛沢東の「張り子のトラ」からの連想です。「素顔のライオンズ」と言った方が創作の意図に近いかもしれません。

プリンプトン(1927~2003年)は“ニュー・ジャーナリズム”と呼ばれた文学と報道にまたがる文章手法の担い手の一人でした。『パリス・レビュー』という文芸誌の編集長を務め、スポーツ誌『スポーツ・イラストレーテッド』に多くの作品を寄稿しました。『ティファニーで朝食を』『冷血』で知られるトルーマン・カポーティの伝記『トルーマン・カポーティ(上下)』(新潮文庫)のほか、『遠くからきた大リーガー』(文春文庫)などの邦訳があります。『ペーパー・ライオン』は「小説家の目と足と手による文章」という“体験的ジャーナリズム”の手法によるノンフィクション。従って、ここに描かれているのはあくまでも「人間」であり、フットボールの技術とか戦術とかではありません。

訳者が本書に出会ったのは1975年ごろ。神田神保町の東京泰文社という古本屋で見つけたペーパーバックで、刊行から9年がたっていました。ベストセラーになり、映画化されたことを知り、「フットボールについて書かれた、これまでで最高の書」というキャッチフレーズにひかれ、通勤の車内で読み始めました。しかし、辞書を引くこともせず、意味の分かるところを拾っていくという、いいかげんな読み方だったので、本書の精髄をどこまで味わえたことか。その後、リプリント版が出版されたことを知り、改めて読み直したくなりました。どうせならと辞書を横に置き、日本語に置き換えてみました。プリンプトンの洒脱な文章に導かれて、プロフットボールの世界に触れた気になりました。

プリンプトンはじめ選手やコーチたちの大半がすでにこの世を去りました。ずっと年上だと思っていた彼らとあまり差がなかったことに驚かされます。しかし、本書が今なお色あせず、スポーツ文学の「古典」に挙げられる理由は、プリンプトンのユーモアある筆致と選手たちの人間らしさにあるのでしょう。プロフットボール人気を高める一助になったという評価もうなずけます。日本でも関心が高まってきたフットボールですが、技術書以外の読み物はあまり見かけません。フットボールの面白さを知っていただければ幸いです。

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